愛の戦士キューピーハニーの日記Neo

生涯現役、生涯前向き、生涯楽しむ心、生涯自分磨き

33rd 全日本トライアスロン皆生大会〜ラン編〜

それほど尿意がある訳ではないが、トイレに行っておく。
これからの長い長い旅に備え、心置きなく食ったり飲んだりするためだ。
つまりは、不安要素を取り除くためだ。
いい忘れたが、バイクパートのほうが食べても走りやすいため、エイドごと主に半カットのバナナを3本、スイカを2個、梅干1〜2個平均して食べた。かなり食べていたほうだ。今回は大会運営上コストカットということで飲み物はコーラが少なめということだったが、あればなるべくコーラのボトルにして、カロリーを補給した。フレームにテープで貼り付けていたパワージェル3本もすべて走りながら摂取した。折り返しての往路では補給を控え、エイドも2回ほど飛ばした。今年は比較的涼しく、エイド間のボトルは1本、もしくは1本半で十分だった。不要なボトルは返すようにした。
ランスタート地点でもしっかり補給して出発。
本番までのラン練習は乏しく、トレミル5km走が主だった。30km走を1度はしておきたかったが、結局時間が取れず、長距離走は4月の加茂郷フル以来。
なのに十分走りきれると、根拠の無い自信があった。
15時を過ぎて照りつける太陽の下、熱中症になることが一番怖かった。
というのは、バイクのタイムアウトだけは避けようとバイク練を主にしていたのだが、ロングライドを1日がかりですれば、当然炎天下になるわけで、軽い熱中症の症状に何度かなった。それも暑さに慣れるためではあったが、クラクラとするあの感覚は、気持ちのいいものではない。さらには翌日にまで体に不調を残すのだ。
熱中症対策としては、練習直後に乳製品(主に牛乳、飲むヨーグルト)を取ることを5月くらいからしていた。
蛋白質と糖質を多く含む食品を練習直後に取ることで、体内の血液量を増やし、熱中症になりにくい体となるのだ。
とにかく、ランパートではエイド毎スポンジで頸部を冷やし、背中に氷を入れて、走るようにした。
リクエストするとOS-1を注いでもらえたので、なるべく飲むようにした。
なにしろ、黒のアームバンドとスパッツに凄まじく真っ白い塩が吹いている。
それだけ体から塩分が出てるんだから。
すでに折り返してきた選手の中で、東雲爆走隊、ままかり、Bon Vivant、アミーゴ倉敷などの岡山勢を見つけると、知り合いだろうが知り合いでなかろうが、片っ端からチーム名を叫んでハイタッチしまくった。なんだか戦友のような気がして。向こうはへんなヤツと思ったかもしれないけど、すれ違い様にエールをもらえたし、やることで自分のテンションがあがった。
折り返し地点で、通過チェックを受け、目印のバンドをもらい、しばらく走っていると、鍛遊会のマルコス会長が向かってきている。
バイクパートでは抜き抜かれつの展開だったが、かなり辛そうだ。
「もう駄目だ。間に合わん。」
20年のトライアスリート歴の大先輩に対して、生意気なことに私は
「止められたんならともかく、自分から諦めたらいけん、進んで。」
と言い放った。
境港は夕暮れとなり、夜行タスキを渡される。
ところで今回、私が皆生に出場するにあたり、恩人と呼ぶべき人がいた。
ジム仲間もっさんだ。
バイクカーニバルや2度の試走でもかったるい私の走りに合わせて走ってくれた上、本番に向けアドバイスをくれ続けた。
そしてこの本番でも、当日の用事を済ませたあと、応援に駆けつけてくれた。
もっさんは自分は皆生に落選したものの、私が完走するための作戦を我が事のように考えてくれた。
もっさんは車をところどころで止めては、走り出してきてエールをくれた。
「ようがんばった。この調子でキロ9分を維持すれば、完走出来るで。エイドで頸を冷やすのを忘れるな。」
ルール違反にならないよう、併走にならないよう細心の注意をはらってくれながら、車で先行しては、私の様子をうかがってくれる。
残り17km地点。
「あと、キロ30秒だけ、上げれんか?このままだと、やばい。」
マジで?でも、どうにも上げられない。
「心肺じゃなく、脚にかなりきとるな。わしはその辛さはわからん、わからんけどごめん、もう少し、がんばれんか。」
「ほら、あの男性についていけ。絶対に落とすな。」
レースNo.888の男性についていく。
この人はペースが安定している。推定50歳台の男性。
「ついていかせてください。どうしても、どうしても完走したいんです。」
自然に上げていく。きついが上げていく。
その男性は地元鳥取県の方で、コースにも詳しい。
非常に落ち着いた口調で、
「大丈夫、十分間に合いますから。」
と諭すように言ってくれる。
一緒にゴールに向かっていく。
苦しい、そして辛い、思わずその男性に
「あと何キロでしょうか。本当に間に合うんでしょうか。」
とまるで迷子の子猫みたいに何度も何度も不安をぶつける。
「大丈夫ですよ。必ずゴール出来ます。」
エイドに寄り、むさぶりつくようにスイカをかじり、水分を摂取した。
コップから半分は顔を伝ってこぼれ、よだれを垂らしながら、さながら餓鬼のようだったろう。まさに地獄絵図だ。
ほてった体に水を掛けてもらい、スポンジで頸を冷やし、背中に氷を
多量に入れるが、走り出すとしばらくしてまた体がほてってくる。
男性は大抵、私よりもエイドで時間をかけて、私が先に走り出す形。
姿を見失う毎、
「888さ〜ん、888さ〜ん。」
と暗闇で叫んだ。
888さんが追いついて、また一緒に走る、これを繰り返した。
ところがそのうち888さんとはぐれてしまった。
もっさんが近づいてくる。
「ようがんばった。別に完走がすべてじゃない。過程が大事なんだから。ランシューズを履いていけるとこまでいった。十分立派じゃ。」
その言葉を聞いて、
「あほう言うてくれるな!もっさん。冗談じゃない!私には完走しかないんだ!
ここまで来て、完走しない訳にはいかんのじゃ!!!」
実は、新しいバイクを買った事、そのことで、後ろめたさがあった。
夏のボーナスを、家族のために、家計のために使わず、自分だけのために使ってしまった。
このままでは、家族に示しがつかん!
自分の名誉とか、恥がどうとかそんなことはどうでもよかった。
家族に示しがつかない、だだそれだけが、頭の中を占めていた。
死に者狂いとはこうゆうことだ。
絶対に絶対に制限時間内にたどり着いてやる。
ちょうど同じくらいのペースで走る、大阪の女性と一緒になる。
刻々と迫る時間に追われながら、その女性も必死。
もっさんが自動販売機で水を買ってきて
「半分ずつ掛けねぇ。」
と渡してくれる。
半分掛けて女性に回した。
冷たい水を頸から掛けて、生き返るようだ。
その女性のほうが息づかいが荒く、もっさんがアドバイスに回る。
「腕をもっと振って、大丈夫、このまま落とさなければ、ゴール出来るで。」
いつの間にか中海テレビの最後の関門を通過したようだ。
でもあと6kmもあるのか。
もっさんが
「わしが陸上競技場で骨を拾ってやるから、思い切って、行け。」
と言ってくれる。
行こう、倒れても。ゴールめざして。前へ、前へ出る。
皆生名物の陸橋では、3年前応援に行ったとき、選手が疲れた脚で転がり落ちている姿を目の当たりにしていたので、この棒のような脚では危険と、無理せず手すりを持って歩いて渡る。
東山陸上競技場の照明が見えてくる。
陸上競技場のトラックに入った。
まぶしい。
なんとか間に合った。
この瞬間を、どんなに夢見たことか。
ゴールテープに向かい、「ヤッタ〜!!!間にあったでぇ〜よっしゃ、よっしゃぁあああ〜!!!」と雄たけびを上げながら
ものすごい勢いで突っ込む私に周りは呆然。
前方に男性選手がいたが、赤絨毯の上で立ち止まって後ろを振り返り、私を見て目が点になっている。
その横をすり抜け、お先にゴール。
栄光のゴールテープを切りましたとさ。
制限時間わずか12分前のゴールだった。
メンバーのミヤワッキー、六、No Limitsのスコット君の皆生鉄人3名と松江在住のきんたくん夫妻がゴールで迎えてくれた。
六が
「わしはハニーは絶対帰ってくると思っとったで。」
と言ってくれたのがうれしかった。
いつもわたしのことをオバハン、オバハンと言っているが、見直した。
スコット君には丸4時間も待たせてしまった。今度は、そう待たせないうちにゴールするからな。
ミヤワッキー、お互い家庭を壊さないようにしながら、毎年皆生鉄人更新しような。
きんたくん、身重の体で暑い中応援ありがとう。みんちゃんとは(産気づいてはいけないので)きんたがいないスタート前のトランジットエリアで完走の願かけのハグしときました。(まあ、きんたはそんな了見の狭い女ではないけど。)みんちゃんはスタート前に魂吸い取られた〜と言ってました。本は注文中です。ゆっくり読ませてもらいます。
ウェーブ応援部隊の皆さん、早朝から途中途中での応援ありがとうございました。ゴールが遅すぎて帰路に間に合わずすみません。来年は間に合うようゴールするんで皆で写真お願いします。
さて、メンバーと写真を取っている間にもっさんが見えなくなった。
電話して確かめると
「元気そうにゴールしたから、骨を拾う必要もないんで、もう帰っとるよ。お疲れさん、本当におめでとう。自分のことのように、わしはうれしい。」
もっさん、ありがとう。
もっさんがいなかったら、完走出来ませんでした。
そのさりげない優しさで支えてくれてありがとう。
もっさんは私と似てちょっと偏屈もんだけど、付き合えば付き合うほど、味が染み出て、良さがわかってくる人です。
もっさんと出逢えて本当によかった。
トライアスロンを続けていたから巡り逢えた。
ずっとこの友情を大切にしたいです。


ありがとう、大自然に抱かれる最幸の一日を。
2013 夏、皆生の地にて。